ごくごくひと握りを除けば芸能人の労働環境はたいへん劣悪である。これでは才能・資質に恵まれた人材が集まらないし、芸能界そのものが社会の吹き溜りのようになってしまう。芸能に対するかつての差別が復活しそうな気配さえある。
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能年玲奈(23、レプロエンタテインメント)、清水富美加(22、現:千眼美子。レプロエンタテインメント)、西山茉希(31、オフィスエムアンドビー)、ローラ(27、LIBERA)、それからSMAP(ジャニーズ事務所)、堀北真希(28、スゥイートパワー)などなど、所属プロダクションとのトラブルの例は数多い。しかも最近とくに目立ってきたような気もする。
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これでは海外進出、国の国際文化戦略など夢のまた夢でしかない。この分野の先進国・アメリカと豊かな経済力で強力に推進しはじめている中国とに挟まれて、日本の国際的存在感、イメージは低下する一方である。
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であるから芸能界の体質改善に大急ぎで取り組まなければならないのである。否も応もない。お国のためである。1億火の玉でやり遂げねばならぬ。
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最初に手を付けるべきはもちろん芸能人の労働環境の整備である。労働環境の整備はすなわち日本芸能界の枢要を占める芸能プロダクションの旧態依然とした体質にメスを入れることである。労働環境の整備で諸悪を元から断つのである。
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芸能界には芸能界だけの特殊な“雇用”の形態がある。さかんに「奴隷契約」といわれているものだ。“雇用”とカッコ付きで書いたのは、ほとんどのプロダクションが所属するタレントと結んでいるのは「雇用契約」ではなく「業務提携契約」と認識していらっしゃる、らしいからである。
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「業務提携契約」であれば労務の対価として賃金を支払う義務も生じないし、労働時間の上限もない、社会保険への加入や健康診断を受けさせる義務もとうぜん発生しない。つまり芸能プロダクションは芸能人のスケジュールや著作権などを一元的に管理しているだけ、なのだそうである。
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芸能プロダクション側としては自分たちの利益を最大限に確保するために、所属タレントとの関係のとっかかりから予防線を張っているのである。たいしたものである。見上げたものである。
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おっしゃるとおり「業務提携契約」なのであれば鼻を高くしろアゴを削れみたいなことまでヅケヅケと口を出してくるのはいかがなものか? である。まあ、こうしたあまりにも見え透いた子どもじみた手口がいまだまかり通っているところが、前近代的といわれる由縁なのである。
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でもって多くの場合、芸能人が契約を解除する際にはまず事前に書面で承諾を求めなければならず、その一方で芸能プロダクション側には一定期間契約を延長できる権利が認められているのである。プロダクションのなすがまま。きゅうりがパパ。
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こうした芸能人にとってあまりにも不利な「奴隷契約」の根拠、ひながたはなにかというと、一般社団法人 日本音楽事業者協会がつくった「統一契約書」である。
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日本音楽事業者協会は芸能界に大きな発言力をもつ団体であり、 業界の利益を守ることをその目的としている。しかし会長は掘義貴(ホリプロ)、常任理事には本間憲(レプロエンタテインメント)が3人のうちの1人として名を連ねている。もちろん役員に芸能人の名前はひとつも見あたらない。プロダクションによるプロダクションのための組織であることは明らかである。
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この組織の目的は業界の利益を守ることではなく、加盟する芸能プロダクションの利益を守るほうにある。そもそもの設立の理由のひとつに「お互いの所属タレントの引き抜きを禁止する」というものがある。移籍しようとしてもそれは引き抜きであるといわれてしまえばそれまでである。
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憶えておられるであろうか? 稲垣吾郎(43)、草彅剛(42)、香取慎吾(40)の3人が契約更改はしないとジャニーズ事務所側に通告した前後の6月初旬、3人と元SMAPのチーフマネージャー・飯島三智(60)をバックアップするはずだった芸能界の大物(田辺昭知)が「引き抜きはよくない」と身を引いてしまったという情報が流れたことを。
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あのとき9月の契約満了をもってジャニーズ事務所を退所するのに「引き抜き」とはおかしなお話、おかしないいかただなあ、と思ったのである。ははん、なるほど。それは日本音楽事業者協会的な見方であり、日本音楽事業者協会的な発言だったのである。これでは、いったん芸能プロダクションに所属したタレントは一生身動きができない。
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「お互いの所属タレントの引き抜きを禁止する」という申し合わせは規約として明文化されているわけではないものの、紳士協定としていまもしっかり遵守されているわけである。素晴しい。
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およそここまでが昨日の内容であった。こうなるなら昨日の記事は要らなかったかも、であるけれどもわざわざさかのぼってチェックしていただくのも恐縮なり、と思って要約したのである。ご了解いただきたい。話題も少し追加したし。
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で、ここまで問題が顕在化し、その原因も明らかだというのに監督官庁はいったいなにをやっておる!! 少し大げさにいえばお国の国際競争力を将来にわたってみすみす損ねるおつもりか? というお話になるわけである。
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ではご紹介しよう。2016年11月、厚生労働省が日本音楽事業者協会などの業界団体に対して「芸能人も労働者として扱い、雇用契約と見なすこともあり得る」という認識を示した文書を配布したのが、まずは動きのひとつ。オサムライさんおっとり刀で駆けつけてみました感じである。
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これに対して日本音楽事業者協会の対応がまた木で鼻を括るものであった。「芸能人が雇用契約であるかどうかは見方が分かれており、芸能界の実態が十分理解されていないのではないか」と反論するだけだったのである。
(※「ビジネスジャーナル」2017年5月8日配信【タレントの契約トラブル多発と芸能事務所「優先」主義…音事協「統一契約書」の存在】)
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もうひとつ、圧力をかけて芸能人を業界から締め出すことは独占禁止法に抵触するのではないか、とたびたび指摘を受けてきた公正取引委員会は、腰を上げようかな〜、どうしようかな〜の段階である。
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とりあえず2017年3月にはこの問題に詳しく『芸能人はなぜ干されるのか?』の著者であるフリーライターの星野陽平を招いてヒアリングを行っている。公正取引委員会のホームページではその内容を「独占禁止法をめぐる芸能界の諸問題」としてPDFで公開している。芸能界の歴史や慣行についても幅広く、しかしかなり大雑把にふれているので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。
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ま、行政の動きはこんなものである。残念ながらいますぐどうにかなるというお話ではない。ではないけれども、ようやく前進のきざしは見えてきた。
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民間ではこの6月、芸能人の権利を守ることを目的に「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」が発足した。発起人メンバーには弁護士5人(望月宣武・向原栄大朗・安井飛鳥・河西邦剛・佐藤大和)が名前を連ねている。活動方針は以下の3点である。
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1:芸能人らの権利を守る
2:芸能人らのセカンドキャリア形成を支援する
3:芸能人らの地位を向上させる
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5人の弁護士のうち佐藤大和(34)はご存じ『バイキング』(フジテレビ)に出演していたので顔を覚えていらっしゃる方も多いであろう。芸能界に対する姿勢として、6月18日付のTwitterではこう発言している。
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「これは『一般論』ですが、芸能事務所を辞める際に『事務所を辞めたあと数年間は芸能活動を禁止する。』との契約(特約)の締結を強いられることもありますが、芸能活動を禁止することは、実質的に芸能活動の道を閉ざすものであり、拘束力はないと考えています。圧力も不当な圧力になるでしょう。」
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また「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」のホームページには以下の発言も掲載されている。
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「芸能界で活躍される方々が笑顔で頑張れて、自分たちの力を発揮できる場を作るために協会はある、と思っています。今後は、日本の芸能界は世界に負けてない、世界で戦える、ということを示していきたいと考えています」
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芸能活動の禁止を「不当な圧力」と明言した佐藤大和がこれからも『バイキング』に出演し続けられるかは不明であるけれども、ぜひ頑張っていただきたい。楽しみに見守っていこうではないか。これからようやく日本芸能界の刷新がはじまろうとしているのである。
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それにしても「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」ホームページのトップビジュアルが三流芸能プロダクションみたいになってしまっているのは、いったいどういうわけであろう?
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おお、顔を見知っているような芸能人はすべからく現状のプロダクションシステムに呑みこまれているってことなのね。ヤマトがんばれ!!(了)
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